2009.02.26

歯が減る、溶ける現象 tooth wearについてご存じですか。私自身、日々の診療の中で虫歯でもないのに歯に実質欠損が生じているのをしばしば目にします。2月15日(日)、このtooth wearをテーマとした講演会が東京医科歯科大学で開催されました。

 Tooth wearは、酸蝕(酸による歯の化学的溶解)、咬耗(歯同士の接触による歯の機械的磨耗)、磨耗(歯磨き等による歯の磨耗)、アブフラクション(バイオメカニカルな荷重による歯質の喪失)の4つに分類されます。現代の食生活習慣の多様化、健康志向、およびストレスの多い社会生活環境の中にあって、超高齢化社会を迎えつつある現状と相まり、このtooth wearはむし歯、歯周病に続く第三の疾患として増加の一途にあるといわれています。このtooth wearのなかでも今回は特に酸蝕症について考えてみることにします。

酸蝕症の原因

1. 内因性の酸蝕  胃食道逆流症候群(GERD)では、胃内容物が種々の原因により食道を逆流し、胸焼け、呑酸(口腔内の酸味)などの症状が生じます。ひどくなると食道粘膜がただれて、逆流性食道炎が発症します。pHの低い胃酸によって歯の表面が溶かされます。  一方、拒食症、過食症に代表される摂食障害は、心理的要因による食行動の異常を主な症状とする疾患です。嘔吐を繰り返すことにより、歯は胃酸による浸食を受けます。

2. 外因性の酸蝕  歯はpHが4以下の環境下で溶けるとされておりますが、私たちが日常的に摂取する飲食物にはこのような酸性食品が実に多いのです。特に注意しなければならないのが、オレンジ、レモン、グレープフルーツといった柑橘類です。柑橘類には歯を強力に溶かすクエン酸が多く含まれており、例えば柑橘類を1日に2個以上食べる人では、食べない人に比べて酸蝕症になるリスクが37倍であると報告されています。その他コーラなどの炭酸飲料、スポーツドリンク、ジュース類も酸蝕症の原因となります。  クエン酸には疲労回復効果があるとされ、クエン酸や食酢(食酢も体内に入るとクエン酸に変化し同じはたらきをする)を摂取する健康法がブームを呼んでいます。しかしながら一方で、食酢による歯の酸蝕症が問題になっています。

 また、お洒落にワインを楽しむ方が増えておりますが、ワインのpHは2.3〜3.8と、ビールのpH(4.0〜5.0)よりも低く、ワインの長期摂取による酸蝕症が問題となることがあります。  さらに、プールで泳ぐことで酸蝕症になったという報告も見られます。pHが適切に調整されていない塩素ガスで消毒されたプールで泳ぐことで、酸蝕症が生じるリスクが高まります。ただし、日本の水泳プールは、文科省および厚労省によりpH5.8〜8.6と定められておりますので大丈夫?のようです。

酸蝕症の予防

 重篤な酸蝕症にならないよう、その予防について正しい理解を持つことは大変重要です。  先に記載しました内因性の原因がある場合には、内科、心療内科、精神科といった専門の診療科で適切な治療を受けることが第一です。一方、外因性の原因について心当たりがあるならば注意が必要ですが、ただ単純に柑橘類を食べない、食酢やワインを飲まないでは、せっかくの楽しい豊かな食生活が台無しです。一つには酸蝕症にならないような摂取法を心掛けることです。酸蝕症の発症には、歯が酸に暴露される「時間的な因子」を考慮する必要があります。すなわち、オレンジやレモンを長時間口の中に保持する、ワインのテイスティングとしてワインをしばらく口中に保持することは、酸蝕症の観点からは避けるべきです。これらの飲食物を摂取した後は、口の中の酸を洗い流す意味で水で口をすすぐのがよいとされています。あるいは、カルシウムが多く含まれる牛乳、チーズ、ヨーグルトを摂取することも推奨されております。さらに、フッ素の酸蝕症予防効果を上手く利用することもお勧めです。ただし、フッ素入りの歯磨剤を使っているからといって、酸蝕の負荷のかかった飲食の「直後」にブラッシングはしないようにしてください。少なくとも30分以上時間をおいてから歯磨きをするようにしましょう。

 最後に、酸蝕症は唾液分泌が低下した口腔乾燥症の方で重篤になりやすいので注意が必要です。唾液による酸の緩衝作用が低下しているためですが、それぞれの患者様の口腔内の状況を的確に診断し、適切な保健指導、必要な治療を行うことが私たち歯科医師、歯科衛生士の責務であると考えております。

副院長 檜山 成寿

なお、この記事に関しては次号のひやま通信にも掲載する予定です。

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